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SNEAKERWOLF × 渡辺真史 インタビュー:アートか、作業着か。その“境界線”にある価値を問う10日間

■ "普通じゃつまんない" から始まった出会い

—— お二人の出会いのきっかけを覚えていますか?

べべ(以下 B):最初にウルフくんに会ったのは、「すごい面白い人がいる」って紹介されたのがきっかけだったよね。

ウルフ(以下 W):そうですね。たしかBEDWINで半纏を作ろうっていう話が出てて、でも普通のじゃ面白くないって。それで「この人に会ってみては?」って人づてに紹介してもらったのが最初だったと思います。

B:「今近くにいるから会いに行こう」ってなって。行ってみたら、もう作業中の現場で、ペンキは飛び散ってるし、カンカン音が鳴ってて。何かを作ってるっていう空気がすごくて、「うわ、なんかすごい人いるな」って。

W:あのとき、確かにもういろいろ描いてましたね笑。

B:「なんか一緒にやりたいね」って話になって、ウルフくんが「半纏とか良くないっすか?」って言ってくれて。じゃあどういうイメージ?って聞いたら、「江戸時代の火消しっぽい格好とか、スケーターが現代の火消しって感じだったら面白いですよね」って。

B:スケートやスニーカーカルチャーの話をしてるうちに、BEDWINでブリゲードっぽいノリの半纏をやってみようってなったんだよね。あれ、2020年頃だったよね?

W:はい、ちょうどその頃です。

■ 「SNEAKERWOLF」としてのスタート

—— ウルフさんはいつ頃よりアーティストとして活動を開始したのでしょうか?

W:僕が今みたいに "SNEAKERWOLF" としてやり始めたのはよく意外と言われるのですが、7年前くらいになります。江戸文字と英語を組み合わせた作品自体は20年以上前からあったんですけど、それをキャンバスに落とし込んで売るとか、形にするっていうのは考えてなかったです。

B:絵自体はずいぶん前から描いてたんだね。

W:そうですね。でも引っ込み思案というか、「和っぽいって、、、どうせ誰にも響かないだろうな」って思って家で書いてるだけでした。コピー用紙とかに描いて、ステッカー作ったりして。

B:日本人で "和" をいじる表現って、当時ほとんどいなかったもんね。むしろ海外の人が間違った漢字使ったりして「いやいや違うでしょ」って思ってた笑。

W:作ったステッカーを見た外国人の友達が「これ何?」って聞いてくれて、説明してたら「やばいじゃん!」って。そこから少しずつ「もしかして、これっていいのかも」って気持ちと自信が積み上がっていった感じです。

—— 7年とは意外でした。もっと以前よりご活動されていたイメージでした。

W:実際はそうでもなくて。たまにTシャツのデザイン頼まれて、「名前出なくていいし、絵が描けるだけで嬉しい」って感じでしたから。すごくピュアというか、幼稚な動機でやってました。

■ きっかけは、ノリ

B:"SNEAKERWOLF" って名乗るくらいだからスニーカー屋でも働いてたんだよね、ウルフくんは。

—— そうなんですね?以前からお名前の由来が気になっていました。

W:はい笑 20年以上前ですが、上野のMITA SNEAKERSで働いていました。

B:そのときから"SNEAKERWOLF" って名前を名乗ってたの?

W:いや、違います笑

B:いつから?

W:雑誌の企画に出ることになって、アンケート用紙のようなものに本名を書くのが嫌だったので軽いノリで「SNEAKERWOLF」って書いて提出したんですよ。それがそのままずっと定着しちゃって。

B:スニーカーはわかるけど、ウルフってどこから来たの?

W:STONES THROWの "PEANUT BUTTER WOLF" が好きで、ギターウルフも好きだったし、じゃあ俺もスニーカーウルフでいこうかなって笑。

B:まさかそれが20年続く名前になるとは思ってなかっただろうけど、今ではバッチリはまってるよ。

■ DAYZでしかできないこと

—— 今回のイベント「DAILY PRODUCTS」はどのようなきっかけで開催することになったのでしょうか

W:なんかやれたらいいなって話をべべさんからもらって、そこから考え始めたんです。僕、展示する時にどこでやるかをすごく大事にしていて、ニューヨークでもパリでも大阪でも、必ずその場所を見に行くようにしてるんですよね。

DAYZでも昔展示させてもらったことがありますが、あの場所でしかできないことって何だろう、って改めて考えたんです。僕、あんまり自己満足で「ドーン」って作品並べて「どうよ」って感じが好きじゃなくて。来てくれる人たちがどう感じるかなっていうのをすごく意識するんです。

DAYZってショッピングモールの中にあって、いろんな人がふらっと立ち寄る場所。だからこそ、「アートと洋服の間」みたいな、ちょっと曖昧な表現が面白いんじゃないかって。普段服を買いにくる人が、「これ何?」って思って立ち止まるようなもの。

2022年にDAYZにて開催したイベントの様子

B:それって、ある意味問いかけでもあるよね。「これってプロダクト?アート?」って。

W:そうですね。僕が昔からずっとやってるテーマが「境界線を曖昧にすること」で、たとえば漢字で書いてあるけど英語に見える文字とか、板に見えて実はキャンバスだったりとか。ジャンルの "決めつけ" を崩したいって気持ちがずっとあるんです。

僕がそう考えるようになったのは自身の家庭環境の影響も大きくて、うちの親父、めっちゃ「男はこうあるべき」みたいな昭和の人で笑。その感じが本当に苦手だったんですよ。「男は泣くな」とか「男なんだから」とか。

B:なるほどね。そういう "こうじゃなきゃいけない" を壊していくっていうのが、ウルフくんの表現の芯になってるんだ。

W:だから、プロダクトに見えるけどアートにも見えるし、僕にはゴミにしか見えないけど、他の人には超価値あるものに見える。そういう"見る人によって変わる"っていうのを展示にしたかったんです。

■ "曖昧さ" に宿るリアル

B:なんかさ、結局「これって価値あるの?」って問いかけだよね。誰かにとってはただの作業靴。でも、それがヴィンテージとかアートって言われることもある。

W:そうなんですよ。それを普通の靴屋に並べたら「なんでこんなボロ売ってんの?」って怒る人もいるかもしれない。でも逆に「これやばくない?」って思ってくれる人もいるかもしれない。

B:リセールの世界もそうだよね。定価の何倍もの値がつくこともあれば、何年も売れずに残るものもある。結局「誰かが欲しいと思うかどうか」が価値を決める。

W:それってすごく曖昧で、その曖昧さこそが面白いって思うんです。先日僕がニューヨークの古着屋でちょうど体験したのが、カーハートのデトロイトジャケットとかアクティブジャケットが200ドルとかでわりかし高値で販売されていて、その近くに陳列されていたペンキまみれの同じ形のジャケットが350ドルで売られてるってやつで。

—— まさしく「価値」の話ですね

W:そうです。しかも、それって誰かが生活の中で本当に着てた証拠じゃないですか。だから面白いし、逆に "作られた汚し" よりリアルだなと思って。

B:今って汚れやダメージを加工で再現してって手法が人気だけど、これは全部自然の汚れで完全なる1点物じゃん。これがバーって売れたら面白いよね。

W:笑っちゃいますよね、僕から見たら使い古した作業着なのでゴミだと思っているので。これはもうなんかいたずら書きしてます笑

—— 見る人独自の感性が出そうですね。「俺実はこうゆうの好きだったんだよね」みたいな。購買体験の新たな一面というか。

B:ウルフ君のファンからすると作品の制作時に使用した服が買えるわけだからかなり貴重でコレクタブルに感じてくれる人もいるかもね。

W:そうなんですかね?笑

B:いると思うよ。これって面白いなって思うのが、回遊客からしてみればただのゴミかもしれないし、ファンからしたらコレクティブなアイテムだし、ウルフ君からしたらなんでもないただの作業着で、ひとつの物に対する感情の一番上と一番下が存在するってことだよね。それを「商品」にするっていうのがまたいいよね。

W:普段って僕ガンガン物捨てちゃうタイプなんですが、今回用意する靴や服は、なぜか奥さんが「これは残した方がいいよ」って言ってくれて。

B:それ、面白いなあ。

W:人によっては飾るかもしれないし、普通に履くかもしれない。展示では、あえて新品の服と一緒にラックに並べて混ぜちゃいたいんです。「これ誰かの?」って思うような、"曖昧さ"をそのまま見せたい。

■ 作業着=普段着=作品

B:「そもそも、今着てるそれも作業着だよね?」

W:はい。僕、日曜以外はほとんど作業着しか着ないんですよ。服は好きだけど、着たいものはそのまま着て、くたびれてきたら作業着にローテーションしていく感じです。今の格好を普段着として着るのは絶対嫌です、汚れてるんで笑

B:スニーカーも履いて履いて、最後は作業靴になる?

W:やっぱり "SNEAKERWOLF" と名乗ってるのでそもそもスニーカーが好きなので、最初にちょっとだけ大事に履いて、くたびれてきたらもうガンガン使う。ディッキーズも同じで、普段着で着てくたびれたら作業着にします。

—— その境界を曖昧にしているんですね

W:曖昧です。作業着と普段着の区別って僕にはあまりないんです。でも、その "曖昧さ" が逆に面白くて僕にとってはもう汚れてて着たくないものが、誰かにとっては「かっこいい!」ってなる。

B:今のストリートファッションって、元々はワークウェアとかミリタリーとか、作業着だったものを "おしゃれに見せる" 文化だったと思うんだよね。それって本質は変わってないと思う。

W:僕も子供の時から全然変わってなくて、昔からずっと続く自分の "好き" を大人になって仕事道具として使ってる感覚です。

B:原宿のカルチャーって "境界線がないこと" を楽しむ文化だったしね。普段は交わることがないブランド同士がコラボしたり、いろんなスタイルを混ぜてミックスして。

W:あの "ごちゃ混ぜ感" が東京っぽいし、自分のベースにもなってる気がします。

—— 本日はありがとうございました、どのようなイベントになるか今から楽しみです!

W:こちらこそありがとうございます。ぜひこの機会に "日常" と "作品" の狭間にDAYZ MIYASHITA PARKまで触れに来てください。

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