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THE STORY OF WORKS SPEAKS ELOQUENTLY THAN LIPS!!! : NUTS ART WORKS |Naoto Hinai

SupremeOLD JOERalph Laurenなどの様々なアパレルブランドに留まらず、飲食店などの看板も精力的に手描きし続ける職人、NUTS ART WORKS。その彼の個展『WORKS SPEAKS ELOQUENTLY THAN LIPS!!!』がDAYZに隣接するSAIギャラリーにて開催される。 DAYZのサインも手掛けるNUTS ART WORKS、比内直人に話を聞く。

――今回個展を開こうと思った経緯を教えてください。

普段は簡単に言うとクライアントワークをやっているので、文言もサイズも決まっていて、希望の雰囲気に沿って描いて返す感じです。その傍ら、実は自分の作品自体はずっと作っていて。7年前にVACANTで『SIGN PAINTERS AND TRAVELLERS HAVE LEAVE TO LIE』というタイトルの作品集を出すタイミングで展示をやりました。あの時は売る気もなかったし、仕事の幅を広げようと思っただけで、とりあえず見てもらうことを大事にしていましたね。今回は売ってみようと最初から強く思っていました。自分は割と何でも作品にできちゃう方なんですが、今自分が一番欲しいものを考えた時に、TATTOOモチーフの人と文字だなと。それらをあくまで看板ような形で作りたいと思った。それで2、3枚最初に作ってみたら、これはキテる! って自分で思っちゃって(笑)。

――今回の作品はいつ頃作られたんですか。

コロナ前ですね。元々2020年にオリンピックに合わせて制作しました。外国人も来るし、日本が盛り上がるタイミングで個展ができたら最高だなって思って。それで、2020年に合わせて作り始めていたんだけど、半分以上完成した頃にコロナになっちゃって。場所を押さえるにも押さえられない状況でしたね。個展をやったとしても人が来ない状況なので、意味ないなと思って待つことにしたんです。その後も作り続けてはいたので、作品自体はニ年前には完成していたんですよね。あとは場所とタイトルと、どう言う人にお願いしようかって考えて、まずはしんちゃん(滝沢伸介氏)に相談して、「多分好きだと思うから一枚見てよ」、「率直な感想を教えて」って。というのも、前のVACANTみたいに自分で場所を借りて、自分で宣伝することって割と簡単にできちゃうんですよね。思ったような反響が来ることも予想できる。でも、今回はそこじゃないところを見てもらいたくて相談したら、今回のお話が来た感じです。

――モチーフは2020のオリンピックに合わせて、自分がかっこいいと思うポートレートとTATTOOと伺っていたんですけど、それらをモチーフにしようと思ったのはなぜですか。

普段の仕事とは別で、今ここに並べられているのはアート作品と自分の中で明確に分かれています。自分にとっていいものと考えた時に、本当にTATTOO大好きなんです(笑)。だから好きなものをモチーフとして選びたかったし、すごい自然な流れでしたね。入口は中学生、高校生の時に見たTATTOOの不良のかっこよさからだったんですが、その後は割とすぐに美術的な目で見るようになって、ずっと好きです。庶民に根付いたもので脈々と続いているものには何かあると思っています。いわゆる美術、絵画とかってすごいんですけど、色々な説明があったり。TATTOOって禁止されたり、時代的な背景があっても続いてきているから。その意味やパワーを感じるんですよね。何だろうね。本当に好きとしか言いようがない。

――NUTSさんの作品には、アメリカの雰囲気を感じるんですよね。古き良きアメリカ的な。でも今日身につけているものも含めて、今回の作品は和のテイストが強いものもあるので、普段との違いを感じたんですよね。

和に関して言うと、手書き看板屋として趣味でずっと描いていたんです。ただ、十年くらい前までは漢字をやると何でも屋になってしまうのが怖かったんです。でも古き良きというのを大事にしたいとはずっと思っていました。あえて人目に触れるようなところには和のものや漢字は見せてこなかったですが、結局好きすぎて爆発してしまいました(笑)。仕事を受けてしまったら最後まで止まらないというか(笑)。今はやっぱりSNSで、和のテイストのものをあげたりすると拡散力がすごくて、それまではほとんど和なテイストの注文は来なかったんですけど、今では普通に依頼が入ってきますね。

――昔からNUTSさんの看板を見ている身としては、表現が増えているなというのは感じていて、それと同時に自分の中での変化は何かありましたか。

結局長いスパンで見ると、ガラッと変わって見えますよね。毎日毎日の積み重ねの結果、今があるので新しいものを発見した時にはもう前の自分ではなくなっているし、遊びで描いていたものが評価されて仕事になったり。外国人が勘違いした日本っぽい面白いものを作ろうとか、日本の文化的なアプローチとしては書道などの世界になってくると思うんです。ただ自分が本当にそっちの方に行きたいのかって言われたらそうではなくて。看板が好きなんですよ。だから、書道で下書きして、筆でちゃんとガラスに描くことが好きなので。あくまでも看板屋がベースです。やっぱり文字が面白いですね。飽きないです。今回の作品はポートレートにTATTOOがドーンってイメージが強いと思うんですけど、自分の中の熱量としてはモチーフと文字が半々くらいな感覚なんです。

――今回の作品はキャンバスなどではなく、ガラスでの表現を選んだんですか。

使っている技術が日本は元よりできる人が少ないというか、こんなにネットが発達したのに、やり方が載ってないんですよね。大体の流れはYouTubeとかにありますが、実際に何度で溶かすとか、湿度とか、大事な具体的なところの情報がなくて。昔は理科と数学の実験みたいなことを毎日やっていました。一回の実験に大体24時間かかるんですけど、毎日少しずつ数字を変えていって実験して、数値化したんです(笑)。しかも裏から描くので、表面は無傷なんです。絵も文字も逆向きで描いています。普通の看板や絵みたいに、ここにちょっと光り足そうとか、ほっぺをもう少し明るい方がいいなというようなことが今回はできないんですよね。だから下絵の段階で物はほぼ100%決まっています。あとは作業なんです。この技術はできる人がほぼいないので、伝統工芸みたいな感じで。パブミラーを作っている技術と同じなんですが、その人たちはパブミラーを作って終わりなんですよね。それはそれですごい技術でかっこいいんですけど、東京の令和に俺が個展でやることではないなと思ってしまって。看板のたくさんある技術の中の一つで、どうしても分からなかったことだったので。なので、作品はこの技術を活かしていこうと思っていて、売れそうだなとかウケるんじゃないも一瞬考えたんですけど、わがままを突き通すというか。もちろん看板も楽しいけども、作品作りはまた種類の違う楽しいなんですよね。クライアントワークは最終的に売上に貢献できたり、パッケージデザインをやったらそのお土産がランキングで一位を取ったり、そういうのは単純にすごく嬉しいですね。作品作りは、言葉の要素から自分で決められるし、色から何まで全部自分の好きなものが使えるし、あとは値段の制限がないっていうのもいい(笑)。どうしてもお店だと予算が決まっているから、今回のものはそういう制限がないので、純粋な楽しさで作品を作れました。

Interview & Text : Yu Yamaki
Photo : Ryutaro Izaki

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