
Gallery 38で5月11日よりクリスチャン・プーレイの新作展「Geographies of Love」が開催中
2024.05.13 #ART

1983年生まれのプーレイは、南米・チリの中でもとりわけ植民地化による複雑な歴史を持つ土地で幼少期を過ごす。その後チリで絵画を学び、ロンドン、パリへと拠点を移しながら画家として高い評価を獲得。自らが育った土地や家族のアーカイブ写真をベースに生み出される夢と現実の狭間のような情景は、イメージの大部分が抽象化されており、柔らかな印象の中でノスタルジーに陥りそうな鑑賞者に、大胆で力強い絵筆の跡とどことなく不穏な空気がふと緊張感を与える。
2021年に開催したGallery 38での初個展「Distance」では、パンデミック禍での他者との「距離」に着想を得、転位と不在の概念をテーマにした作品を発表。新作ではより内省的な感情に突き動かされ、深い自己認識の世界に入り込んだというプーレイは、今回の制作を通し「Belonging (帰属する)」という感情、そして個人と「Home (家、故郷)」との関係性という一貫して思考し続けてきたテーマをさらに探求している。
「Home (家、故郷)」とは、個人、家族、国、地域が他との関係を理解するための最も基本的な社会的概念の一つです(『Home—So Different, So Appealing.』展 ( LACMA Museum、2017年)より)。」離れているからこそ「Home (故郷)」はより概念化し、現実と想像が作り上げる産物となりながらも、地理的環境、文化的、社会的、感情的 風景の集合体として知覚される「自分」を探求する上で、物理的な地図上の点ではなく個人史や感情の中にある「場所」としてむしろ重要さを増していると言う。「絵画上の架空の空間が本当の帰属感を創り出すことができるのか?」という問いに対し、彼女はシモーヌ・ヴェイユの言葉を引用、「根ざすことは、おそらく人間の魂にとって最も重要でありながら最も認識されていない必要性である」(シモーヌ・ヴェーユ 「根をもつこと」山崎庸一郎 訳、春秋社、2020年)
作家は、異なるように見える断片が一つの表面で共存することができるペインティングという「言語」を通して、鑑賞者と対話することを意図している。本展覧会の作品「Geographies of Love」では、現実を見る別のレンズ、この場合は場所や人々への「愛」や「愛着」を用いて、異なる視点を組み合わせるという行為を促します。ある土地に根ざす感覚、特定の場所やコミュニティへの感情的なつながりは、個人の心理的風景と社会的アイデンティティを形成する上で重要な役割を果たします。観客が彼女の風景の前に立ち、風景に佇む人物が誰なのか、そこがどこなのか、自分自身の記憶と対話し、絵画の前を往復しながらさまざまな角度からその風景の奥を見つめようとする。紛争や混乱に満ちた現在の中で、自身の中にある折り重なる時間や記憶のレイヤーに触れながら絵画と向き合うこと。他者への尊厳に由来する対話こそが重要な世界において、その力は真摯に響く。
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